(1) 逃げ地図ワークショップでリスク・コミュニケーション

・逃げ地図を多様な人が集まり作成するイベントを逃げ地図づくりワーク ショップと呼ぶ。

・逃げ地図ワークショップの成果として、色の塗られた逃げ地図ができあ がる。しかし、逃げ地図づくりワークショップの最大の効果は「リスク・ コミュニケーション」にある。

・リスク・コミュニケーションとは、リスクに関する正確な情報を関係主 体間で共有し、相互に意思疎通を図ることをいう。

・逃げ地図ワークショップの開催にあたっては、何のために逃げ地図をつ くるのか、主催者の間で確認することが重要である。

(2) ワークショップ開催の目的

・逃げ地図ワークショップの開催の目的は、次のようなものが挙げられる。

①住民等の防災意識の啓発

ハザードマップを見て防災について話し合う機会を創出するために開催 する。

②避難に関する課題の抽出

避難場所・避難経路の検討をはじめ、徒歩による避難、要援護者の避難 など、避難に関する課題を抽出するために開催する。

③避難場所の検証

市町村などが指定した避難場所が適切な位置にあるかを検証するために 開催する。

④避難経路の検証

避難場所に至る避難経路の安全性や避難時間が最短の避難経路を検証す るために開催する。

⑤避難計画の立案

避難場所の指定や避難経路の整備、避難訓練、要援護者の避難方法など を定める避難計画を立案するために開催する。

⑥地区防災計画の立案

地区独自の避難計画などを市町村の地域防災計画において位置づけた地 区防災計画を立案するために開催する。

(1)多様な関係主体の参加

・逃げ地図ワークショップは、性別や世代に偏りがなく、できる限り多様 な人たちが参加することで、リスクコミュニケーションがより活発にな る。

・防災意識を啓発し、避難に関する課題を抽出する上でも、様々な立場の 人の参加は有意義である。各々が意見を出し合い、相互の意思疎通を図 ることでリスク・コミュニケーションが促進する。

・特に、青少年と高齢者の両者の参加は、世代間の交流や次世代の育成の 観点から重要である。

(2) 地域の実情に詳しい関係主体の参加

・逃げ地図ワークショップは、指定された緊急避難場所以外の場所への避 難や階段・通路等を経た避難も検討するため、それらに関するできる限 り正確な情報を得る必要がある。

・災害からの避難のリスクに関する正確な情報をみんなで共有するため、 避難場所や避難経路に関する地域の実情に詳しい人の参加を得ることが 望ましい。例えば、消防署や自治体の危機管理部門等がある。

(1) テーマの設定方法

・逃げ地図ワークショップの案内は、「みんなで一緒に逃げ地図を作成し よう」でも十分であるが、逃げ地図作成をとおして意見交換するテーマ をあらかじめ設定することが望ましい。

・テーマは、「開催の目的」「参加対象者」「避難関連情報」の3点を踏まえ、 その地域の避難に関する課題に即して設定する。

(1)基本的なプログラム

・逃げ地図づくりワークショップの基本的なプログラムは、次の1~5で ある。このうち、2~4は複数の班に分かれてグループワークを行う。

①ガイダンス

・ 逃げ地図づくりの目的とテーマ、逃げ地図の作成方法などについて簡潔 に説明する。

・逃げ地図の作成方法の理解を促すため、事例や動画を見せると良い。

② 逃げ地図づくり(参考:第 1 章)
( 避難目標地点と避難障害地点の確認)

・用意した地図とハザードマップをよく見ながら、避難目標地点に●印、 避難障害地点に×をつける。

・色塗りと意見交換の時間を確保するために、事前に避難目標地点の候補 を鉛筆などでチェックしておくと良い。

(避難時間と避難方向の図示)

・避難目標地点から逆算して3分ごとに色分けする。

・色分けした地図に、避難目標地点に最も早く到達できる方向の矢印(→) を入れる。

③逃げ地図を見て意見交換 ・作成した逃げ地図を見て気がついたことなどを意見交換する。 ・出された意見は、用意したポストイットにメモ書きして、逃げ地図に貼る。

・あらかじめ意見を出しやすいように、問いを用意しておくと良い。例え ば、避難に時間がかかる場所や避難しにくい場所はどこか。災害時要援 護者の避難誘導や避難階段整備などの課題は何かなど。

④ 成果の発表

・作成した逃げ地図を展示して、得られた成果を発表し合う。

・設定条件の異なる逃げ地図を作成した場合は、色分けの違いなどを比較 するとよい。

(2)ワークショップの総時間と時間配分

・逃げ地図を作成する時間は、被災区域の面積や道路の密度に応じて異な るが、これまで各地で行ってきたワークショップを振り返ると、避難目 標地点の設定から避難方向の図示までの逃げ地図作成に概ね1時間程度 はかかる。

・ガイダンスに 20 分、発表会に 20 分、逃げ地図をもとにした話し合い 20 分をかけるとすると、逃げ地図づくりワークショップは全体で最低2 時間必要である。

(3)事前の逃げ地図の作成

・プログラムの内容や時間配分を点検するため、事前に逃げ地図を作成し てみることが望ましい。

・特に、津波以外の災害や複合災害からの逃げ地図づくりは、判断に迷う ケースもあるため、事前に作成してみることが重要である。